記事概要 教員の視点での、東京都内の私立中学校の評価基準を解説します。この記事が、私立中学校を受験する児童や保護者、私立学校に勤めようと思う人の参考になれば幸いです。今回は、偏差値が高い私立中学校では、どんな方針で英語を指導しているかについて解説していきます。
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言語の習得方法
人類が言語を習得するには、まず「言語をひたすら聞く経験」が必要です。言語活動の中で、「話す」「書く」「読む」を生まれてすぐにできた人はいません。意識しているにせよしていないにせよ、言語習得のために全人類はまず「聞く」から始めます。したがって、英語を学ぶにしても他の言語を第二言語として学習するにしても、本格的に取り組むのであれば、初期の言語学習は「リスニング」を中心とした活動がメインとなるはずです。本格的に英語を学習し始める中学1年生の時点で、「聞く活動」を中心的に、英語の指導を行っていないような私立中学校は、英語の指導が理にかなっていません。言語学習に近道や抜け道はありません。リスニングから地道に時間をかけない限り、英語の習得は不可能なのです。
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偏差値が高い私立中学校の英語指導
偏差値が高い私立中学校の英語の授業では、中学1年生の1学期にリスニング活動を中心的に行いながら、矢継ぎ早に教科書を進めていきます。今日では、小学5、6年生から英語の授業が始まるため、偏差値の高い私立中学校に通う中学1年生は、中1の英語をほとんど「聞いて理解」することができます。なお、偏差値の高い私立学校に通う生徒は学習能力も高いので、公立中学校よりも早く教科書を進めることができ、常に前へ前への学習になるわけです。
学校のレベルによって学習進度に差はありますが、英語の指導をリスニング中心とすることは、進学校と呼ばれるような学校ではどこもやっていることです。これは私立中学校だけでなく、東京都立中高一貫校でも行われている指導法です。これ以外の指導方法で英語の能力を効率よく上げる方法があれば、様々な学校でその方法を取り入れているでしょう。つまり、リスニング中心の指導以外に、英語の能力を効率よく上げる方法はないでしょう。
ゆえに、独自路線の英語指導を行う私立中学校は、英語の能力を育てるために、適切な指導法を行っていないでしょう。「革新的な英語の指導を行っています」なんてキャッチコピーは、全くもってあてになりません。
「4技能をバランスよく」という、理にかなっていない学習指導要領
余談ですが、現在の学習指導要領・外国語(英語)には、「読む」「書く」「話す」「聞く」の4技能をバランスよく指導すると書かれています。今後は、「話す」が「話すこと[やり取り]」と「話すこと[発表]」に細分され、4技能5領域となるでしょう。英語を本格的に学ぶことになる中学3年間の義務教育で、この5領域を勉強しましょうというのが、国が考える公教育における英語の指導方針です。
これまでの説明で理解できるでしょうが、「英語の4技能をバランスよく指導」は無理です。言語学習では、まず、徹底的にリスニングをしなければならないのに、成績をつけなければいけないこともあり、多くの場合、中学1年生からスピーキングやライティングのテストを行います。十分なインプットなしに、まともなアウトプットは不可能です。4技能をバランスよく指導するなんて指針を提示する限り、未来の日本人の英語力は上がらないでしょう。
総括
学年や習熟度が上がるにつれて、4技能をバランスよく指導していくのは大事でしょう。しかし、言語能力が未熟な状態で「聞く」以外の活動を増やそうとも、英語の能力向上はほとんど期待できません。言語はまず「リスニング」からです。
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