都立中高一貫校10校の真実 白鴎/両国/小石川/桜修館/武蔵/立川国際/富士/大泉/南多摩/三鷹/区立九段 著 河合敦 幻冬舎新書
河合敦 幻冬舎新書
概要
白鷗高校が中高一貫校化する前から教員として働いていた著者河合敦氏が、勤務校の東京都立白鷗高等学校・附属中学校含め、都内の都立中高一貫校の人気の理由に迫った作品。東京都の公立学校と受験戦争についての現実を、公立学校教員の視点から書いている。
歯に衣着せぬ物言い
私Garudaは、本書の第1章を数ページ読んですぐに、この作品に引き込まれた。多少知識のある東京都の公立学校教員であれば、公言せずとも気が付いている、教育委員会や文部科学省などの失態を痛烈に批判し、そしてお役所の無能な判断により、いかに学校現場の教員が苦労しているかをわかりやすく解説しているのである。教育委員会や文部科学省失態をきちんと理解している時点で、著者がいかに教員として社会人として教養があるかを表している。そのいくつかその文言をここで引用したい。
この時期の都立高校は、無残に、そして悲しいほどに凋落してしまっていた。
その遠因は、昭和42年(1967)から導入され、昭和56年(1981)まで続いてきた「学校群制度」という、前代未聞の愚策にあった。
結局、「ゆとり教育が日本人の学力を低下させているのだ」という危惧が年々大きくなり、論争は「ゆとり教育」否定派が完全に勝利をおさめさせることになった。
つまり、国会で危惧された受験戦争の低年齢化に、公立の中高一貫校の存在は完全に拍車をかけるかたちになってしまっているのが現状なのだ。
衆議院文教委員会において、公立の中高一貫校が受験エリート校化したり偏差値による学校間格差を助長させないため、また受験競争の低年齢化を招くことがないようにするため、入学者の選抜においては学力試験を課さない、という附帯決議をおこなったのである。
ただ、その手法として、面談や書類選考だけで入学者を選抜している学校は、完全な少数派だ。ほとんどの中等教育学校や併設型中高一貫校では、これに加えて適性検査なるものを用いて、その学校に合致した児童を入学させている現実がある。
公立学校教員の視点から見ると、これらの点を述べている時点で、著者が教員としていかに優秀であるかがわかる。私Garuda自身、著者とは絶対に仲良くなれる自信がある。
本書にもかなり丁寧に学校群制度について書かれているが、簡単な概要はこちら
楽しめる人にはたまらない作品
私Garudaにとってこの作品は非常に面白いが、東京都に住んでいない人や子どもがいない親にとっては、興味をそそる内容ではないだろう。東京都で塾業界に勤めることになった人であれば、この本を読了するだけで公立中高一貫校についての十分な知識が得られる。子どもを東京都の公立中高一貫校に受験させようと考えている親には、参考になるかもしれない。それ以外の人にはできない作品ではある。まさしく「ハマる人にはハマる」作品である。
この本は2014年に出版されたましたが、その後の都立中高一貫校の流れについてはこちら
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