非行少年は日本を救う 『ケーキの切れない非行少年たち』

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ケーキの切れない非行少年たち

宮口 幸治  新潮新書

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始めに

 
 児童精神科医として勤務するかたわら、大学で臨床心理系の授業を受け持つ著者は、発達障害のある患者の診断や支援に力を注いでいました。著者は、医療少年院に入所する、発達障害のある少年と出会い、治療や相談活動を行いますが、期待された成果は現れません。

 医師でありながらの活動に限界を感じた著者は、病院を退職し、医療少年院に赴任します。非行少年への対応で試行錯誤する著者の姿を書き留めたものが、この『ケーキの切れない非行少年たち』という新書です。

概要

 医療少年院を含む少年院には、さまざまな罪を犯した少年少女が収容されていますが、(少年)刑務所とは異なり、あくまでも教育施設です。

 ある時、粗暴な言動の目立つ少年との面談で、著者は円形のホールケーキを三等分する問題を出します。円の中心角は360度ですから、3等分など簡単な何でもないことと思われますが、少年は頭を抱えてしまいます。後日、ホールケーキを五等分する課題を他の少年に与えてみると、バラバラな5つの形に切り分けることはできても、五等分はどうしてもできません。この事実が書名につながりました。

 少年院に収容された少年少女の成育歴や行動の特徴、IQの実際から、「コグトレ」と呼ばれる認知機能強化トレーニングが効果的という結論に達します。また「コグトレ」は、犯罪の防止や減少にも役立ちます。刑務所や少年院の維持・管理には、入所者一人当たり年間で約300万円かかります。入所者を勤労者に、つまり、納税者に変えることができれば、我が国の税収は増え、日本を救うことにつながるというわけです。

良さ

 
 医師であり、臨床心理士である人物による新書ですが、平易で簡潔な文章です。また、医療少年院に入所する、発達障害のある少年少女が、どのような学校生活を送り、どのような困難に直面していたかがよく分かります。ケーキを等分できないという事実は、その一例です。

 「少年院」や「少年院帰り」などと聞くと、恐れや戸惑いを抱きがちですが、そのような偏見の解消につながる著作です。

まとめ

 
 ネーミングの巧みさで販売部数が伸びたという意見がありますが、著者が実践する「コグトレ」を広めるための広告という厳しい意見もあります。「1日5分で日本を変える」という見出しからは、遠い昔に小学校の教員に支持された「教育法則化運動」が思い出されます。

 漫画版も出版されているので、マンガのほうが親しみやすければこちら

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