『大造じいさんとガン』
椋 鳩十(むく はとじゅう) 偕成社
概要
『大造じいさんとガン』は、小学校国語の教科書を発行する4社の出版社の、5学年の教科書に共通する物語です。つまり、我が国のほぼ全員が学んだ教材といえますが、皆さんは物語の内容を覚えているでしょうか。「残雪」や「椋 鳩十」という語が即座に思い浮かんだ方は、国語が好きか、得意だった人ではないでしょうか。
経験豊富な猟師である大造は、秋には沼に飛来するガンを狩ります。ある年大造は、「残雪」とあだ名されたリーダー鳥が率いるガンの群れと出会います。まず大造は、「釣り作戦」でガンを捕らえようとしますが、失敗に終わります。翌年には、「ばら撒き作戦」。けれど、これもうまくいきません。そして、「おとり作戦」。この時、「残雪」は思いがけずけがを負い、大造じいさんに保護されることになります。そして、……。
良さ
人と動物との対決や交流を描いた、心温まる動物文学です。また、人であれ動物であれ、リーダーたるもの資質やあるべき姿を暗示した物語でもあります。残雪が身を挺して活躍する場面で、読者に驚きと感動を味わわせることが、この作品のすばらしさです。
まとめ
『大造じいさんとガン』には、教科書会社によっていくつかのパターンがあります。具体的には、敬体で書かれた教材と常体で書かれた教材。そしてもう一つは、「まえがき」の有無。不思議に思い、調べてみますと、初出(少年倶楽部、昭和16年11月号)は常体で、「まえがき」はありません。皆さんはどちらの教材で学んだでしょうか。
「まえがき」は、大造じいさんを含む猟師たちの狩りの話から始まりますが、「残雪」と対決したのが誰であるかが明確ではありません。一方「まえがき」の無い場合は、大造じいさん本人の体験談として読み進めることになります。また、常体では、大造とガンとの生き生きとしたやりとりが胸に迫り、敬体では、子どもにとっての読みやすさが優先されています。
友情や正義に敏感な年ごろの5年生には、歯切れの良さを味わうことのできる常体で書かれた『大造じいさんとガン』で学ぶことで、物語の魅力がより伝わるのではないでしょうか。
この書評を機に、『大造じいさんとガン』を読み比べてみてはいかがでしょうか。
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