『社会人大学人見知り学部卒業見込』
著 若林 正恭 角川文庫
始めに
平成27年に文庫本化され、長く版を重ねてきた本ですから、「もう読んだよ」という人も多いことでしょう。いわゆるエッセイ・随筆です。著者は気づいていないかもしれませんが、吉田兼好が『徒然草』の序段(初めの言葉)で述べている、「つれづれなるままに……そこはかとなく書きつくれば」そのものに文章化されています。つまり、現代版『徒然草』といってよい、読者にやさしい書物です。
2024年2月、東京ドームを会場にトークを披露した『オードリー』の若林 正恭。飛ぶ鳥を落とすがごとく、誰もが知る人気者が、小学生以来胸に秘めてきた疑問やこだわりを赤裸々に「書き尽くし」ています。また、さまざまな苦労や失敗を包み隠さず述べています。『本音をそこまで吐かなくてもいいのではないか』と、読んでいてハラハラさせられることもあります。しかし、『社会人大学人見知り学部卒業見込』は、若林 正恭の実像や魅力に迫りたい人にとっての必読書といえるでしょう。
概要
『社会人大学人見知り学部卒業見込』は「まえがき」から始まり、「社会人一年生」から「社会人四年生」と続き、「真社会人」を経て「卒業論文」へと進みます。全編を貫くのは、若林 正恭が長く抱いていた素朴な疑問への自分なりの解答や世間の価値観に対する戸惑いや反発。さらに、自分の性格や言動へのなさけなさや後悔。さらには、芸人としての将来への不安が繰り返し顔を出します。
『高学歴であれば幸せになれるのか』『高価な料理や備品は迷わずに褒め、ありがたがらねばならないのか』と若林 正恭は考えます。目上の人にお酌しなかったことで叱られ、会合での席次に戸惑います。飲食店で好みの品が注文できず、後輩とはどのように接すればよいかを、真剣に思い悩みます。
けれど、後悔や失敗を重ねながらも、若林 正恭は無事に「卒業論文」を書き上げます。
まとめ
下積み時代の苦労を忘れず、信念を貫こうとする若林 正恭。やや不器用な生き方かもしれませんが、成果を着実に上げています。『こんな自分をどうしよう』『自分の生き方は間違っていないか』と何かと胸に不安や悩みを抱えている人にとって、課題への特効薬ではないにせよ、精神を安定させる効果のある一冊です。
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