風紋〈上〉 乃南アサ
双葉社
風紋〈下〉 乃南アサ
双葉社
始めに
犯罪。罪を犯すこと。他者の田畑等に無断で侵入するという軽犯罪から、金品を暴力で奪う強盗などの重犯罪まで、法律で規定・禁止された犯罪はさまざまにありますが、犯罪に至る理由はあっても、罪を犯すことは決して許されないことです。
重犯罪の中でも「最悪」とされるのは、やはり他者の命を奪う殺人でしょうか。『人の、誰かの命を奪ってやろう』と常に考え、その機会を窺うという人は、そうはいないと思いますが、思いがけず「殺人犯」となる可能性は、誰にもあるかもしれません。
さて、東京都の中学校教諭が犯人と思われる殺人事件が発生しました。加害者が「学校の先生」かもしれないということで、映像を交えた詳細な報道が連日行われていますが、『風紋』は殺人を犯してしまいそうな先生にとっての必読書です。
概要
主人公は、愛する母を突然失った女子高生の真裕子。母の不在が、母が遅くまで帰宅しないことが殺人事件につながるとは思いもしませんでしたが、警察からの連絡で、真裕子は母の死を知らされ、突然亡くなった母と対面することになります。
殺人事件の容疑者は、真裕子の通う高校の教師で、真裕子の姉の元学級担任である松永。真裕子には勿論面識がありましたし、犯行が行われた日にも短い会話を交わしています。母の命を奪った犯人とは思えませんでした。
しかし、明かになる真裕子の母と松永の関係。さらに真裕子の父のもつ秘密。
逮捕された松永は犯行を強く否定し、裁判でも無罪を主張します。審理は松永に有利に進み、松永の妻も夫の無実を確信します。果たして有罪か無罪か。それは読んでのお楽しみです。
まとめ
凶悪や凄惨とは異なる殺人事件が描かれた小説です。殺害された母は何も語りませんが、残された加害者や被害者の家族には、警察による事情聴取やマスコミによる取材攻勢など、思いがけない事態が発生します。そして、崩壊することになる家族や家庭。
東京の江戸川区で発生した殺人事件の犯人が、中学校の教員であるとしたら、『風紋』にあるような展開が予想されます。もしかすると、教員ばかりでなく、万人に対する警鐘かもしれません。
なお、続編といえる『晩鐘』も、読みごたえのある小説です。
コメント