『破戒』 島崎 藤村
著 島崎藤村 岩波書店
始めに
「ハカイ」という音を聞いたとき、頭に浮かぶのはどのような単語や熟語でしょうか。多くは「破壊」ではないかと想像されますが、今回紹介するのは、戒めを破ることを意味する「破戒」を主題とした小説、『破戒』です。
さて皆さんには、守らねばならぬ「戒め」がありますか。宗教による制約の強い国であれば、衣食や生活習慣に関するタブーや決め事がさまざまにあるでしょうが、私たちの多くは、「厳密な戒め」とは無縁の日々を送っていると考えます。
けれど、『破戒』の主人公は、その人生を左右する、破ることの許されぬ「戒め」を父から与えられます。主人公が苦悩したうえに下した決断を、皆さんはどのように解釈し、どのように受け止めるでしょうか。
概要
主人公は小学校の教員となった瀬川丑松。丑松は被差別部落で生まれました。明治になり、「士農工商」という身分制度が改められ、「四民平等」の社会となります。それにより、それまでの理不尽でいわれのない扱いは解消されるはずでしたが、被差別部落出身者は「新平民」と呼ばれるなど、差別や偏見は依然として根強いものでした。
教師の道を歩む丑松は、父からの「戒め」を守り、自分の出自を隠して暮らしていましたが、そのような自身の生き方に思い悩みます。真実を語れない今を苦しみ、真実を告げた後を恐れます。私であれば、「戒め」を守り通す道を選びますが。
シェークスピアの「ハムレット」ではありませんが、誰かに強いられもしない二者択一に悩み行動する姿は、読み手の心をざわつかせます。
良さ
「LGBT(最近ではLGBTQでしょうか)」という略称の意味するところが昨今広く知られ、私Garudaの周囲でも認められるようになりましたが、それを公にすることは、本人にはまだまだ勇気のいることかもしれません。「LGBT」を自認する方々への差別や偏見を知り、頭に浮かんだのが、小説『破戒』であり、主人公の丑松でした。100年以上も昔に出版された小説に描かれた人物の葛藤を読み味わうことのできる良書です。
まとめ
誤解や偏見はなぜ生まれるのでしょう。差別や区別はなぜ必要なのでしょう。そして、いじめや嫌がらせはなぜ解消しないのでしょう。一言で語ることや、有効な解決策を示すことは難しいことですが、『破戒』のような書物を多くの人が読み、さまざまに考えることが、社会や人を変えるための基本の基本ではないでしょうか。
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