記事概要 中央教育審議会が文部科学省に提出した、「教育実習を母校で行うことはできるだけ避けることが適当である」という資料に異議を唱える記事です。
母校が卒業した教育実習生の受け入れを断る理由(前回記事)はこちら
中央教育審議会の悔い改めるべき点
1.教育実習の改善・充実
(4)実習校の選定と実施体制の整備
実習校の選定については、教員養成大学・学部は、附属学校における実習を原則とし、必要に応じて、一般の学校における実習も行うこととすることが適当である。
一般大学・学部については、同一都道府県内の学校における実習を基本とし、いわゆる母校実習については、評価の客観性等の点で課題があることから、できるだけ避けることが適当である。実習希望者が多く、十分な実習先を確保できないなどの理由から、やむを得ず母校実習を行う場合でも、課程認定大学と実習校とが遠隔教育的な方法を工夫して連携指導を行うなど、大学が教育実習に関わる体制を構築する必要がある。
引用
ここの内容について批判していきます。
反論1 公立中学校では、「客観性等の点で課題」は生まれない
公立学校では、定期人事異動があります。公立学校の教職員は、基本として在籍4~6年で異動します。短大や専門学校からの教育実習生進学者はともかく、公立中学校を卒業して大学4年で教育実習を行うには、最低でも7年かかります。つまり、大学4年生が母校で教育実習を行う場合、中学生だった当時の教員などはまずいないでしょうから、「客観性等の点で課題」は生まれません。仮に、公立中学校の母校に教育実習生の顔見知りの教員がいるとするのならば、批判されるべきは6年以上在籍している教員のはずです。なんにせよ、公立学校の母校で教育実習先を行おうとも私立学校の母校で教育実習を行おうとも、実習生に罪はありません。
人事異動の仕組みに関してはこちら
反論2 「児童生徒や家庭の個人情報保護のため」は筋違い
個人情報保護のため、教育実習生は母校に行くべきではないという風潮があります。家庭内暴力が原因で、転入してくる児童生徒がいる場合があります。所在や在籍を隠す必要のある児童生徒及び家庭の情報を外部に漏らさないよう、教育実習生を受け入れないということもあるでしょう。しかし、たかだか最長4週間の母校での教育実習で、個人情報が出回ってしまうようなことはまずありえません。個人情報の漏洩を警戒するのなら、学校設備を点検する業者から地域住民まで、学校に出入りする全ての人間の情報を開示させ、校内のいたるところに監視カメラを張り巡らせるべきです。
個人情報の保護では、教育実習生を受け入れないという理由にはなりません。卒業生が母校で教育実習を希望するならば、迷わず受け入れるべきであると考えます。
逆説的な考え方 母校以外で教育実習生を受け入れてくれる学校があるのか
大学が教育実習の受け入れ先を確保してくれない場合、教育実習を受けたい大学生は基本的に自力で実習先を探さねばなりません。何らかのコネに頼るしかないのですが、そもそも、母校以外の学校にコネのある大学生が世の中にどれほどいるでしょうか。ほとんどの大学生は、教育実習を受け入れてくれるほどの縁を持ってはいないでしょう。そもそも、卒業生でもない、なんの関係もない大学生を教育実習生として快く受け入れてくれる学校は少ないのが現実です。
一般に公立学校では、1月末までに翌年度の年間行事予定を作成し、区市町村教育委員会に届け出ます。したがって、それに合わせて教育実習生の受け入れ時期などを決めてしまいます。つまり、教育実習を希望する大学生は、3年次で実習先の内諾を得ておきます。
しかし、大学、教育委員会ルートで実習先を依頼した大学生が、大学4年生になって初めて、受け入れ先がないことを知らされることがあります。そこから受け入れ先を探しても、突然連絡してきた大学生を、快く受け入れるような学校はかなり少ないことでしょう。つまり、教育実習の受け入れ先がなく、途方に暮れてしまうような大学生をなくすために、せめて母校は教育実習を行いたい卒業生を受け入れるべきです。
母校でなければ教育実習を行えないという学生が大部分だということです。
教育実習を行う意味
そもそも現職の教員の99%は、教育実習を引き受けてくれた学校があったから教員という職業に就けているわけで、教員になるために必要な実習という機会を、未来の教員候補である大学生に与えないというのは、倫理に反することです。教員になることを希望していた学生の中には、「教育実習を経たからこそ、教員として働くことへの意志がさらに固まった」という学生もいたでしょう。教育実習は、教員になるための登竜門でもあるのです。
教育実習を受け入れない学校には、何かしらの理由がもちろんあるのかもしれませんが、倫理的には教育実習生の受け入れを無下に断ってはいけません。若者の未来を奪うようなことはしてはいけません。
教員採用試験の倍率が年々下がっているなか、文部科学省が未来の教員の芽を摘むようなことを推奨してよいのでしょうか。文部科学省は誰の味方なのでしょうか。教育実習先の確保の難しさや学校現場の実態を文部科学省がいかに理解していないかがわかります。
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